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栄養

蛋白異化率nPCRの考え方

更新日:

透析において栄養を評価するための指標、nPCRについてまとめてみます。個人的にはこの指標大好きです。

nPCRとは

無尿の維持透析患者さんでは、体内の蛋白質の総量が一定、蛋白質が代謝される速さと蛋白質が作られる速さが等しいため、蛋白質が作られる速度は蛋白摂取量に等しいと仮定できます。
すなわち蛋白異化率nPCRは食事における蛋白摂取量を反映する値として扱われます。

nPCRの基準値

維持透析患者さんの蛋白摂取量は0.9~1.2 g/kg/dayとされています。ちなみに健常人は0.9g/kg/dayとなっているため、維持透析患者さんは健常人よりも多くの蛋白質を必要としています。
透析中の蛋白およびアミノ酸漏出を考慮し、栄養障害を防ぐために高めに設定されています。

透析患者さんのnPCR分布

基準値が0.9 g/kg/dayとされていますが、多くの患者さんは必要な蛋白摂取ができていない状況にあります。

透析患者のnPCR分布 わが国の慢性透析療法の現況2010 一部改変

 

nPCRと死亡率

蛋白摂取量が少ないほど、患者の死亡リスクは激増します。

nPCRと死亡リスク わが国の慢性透析療法の現況2009 一部改変

透析患者さんのnPCRはなぜ低いのか

透析室スタッフが患者さんに
「リンが高すぎます、リン摂取を控えてください」
なんてことを言ってる姿をよく見ます。リンが死亡リスクを高めてしまうのはよくわかります。高リン状態が持続することで将来的に心筋梗塞や脳梗塞などの血管系疾患リスクが上がるのは間違いないですし、CaとPのバランスも崩れ線維性骨炎などの病態も引き起こします。
でもリンが含まれる食品の多くは重要な蛋白源でもあるんです。 患者さん各々の食生活や内服管理、透析条件を見直し、その上で食べ物に問題があるのであれば、そこを栄養士を交えて考えていけばいいだけの話なのに、高リンの部分だけに着目して「指導という名の間違った指示」はダメなんですよ。

患者さんのnPCRが超高値であれば、摂取控えてっていう話は通るかとも思います。しかしほとんどの患者さんは慢性的にPEM(Protein Energy Mainutrition 蛋白エネルギー栄養不良)およびPEW(Protein Energy Wasting 蛋白エネルギー消耗状態)なんです。(PEM PEWに関しては後述します)
そこでリン食品を控えるだけの指導をしてしまっては、リンは下がるけど蛋白摂取量も減ってしまい、どんどん痩せていくという負のスパイラルに陥ってしまいます。透析患者さんの「痩せ」は間違いなく生命リスクを脅かします。
高蛋白高リン状態はたしかに問題ではありますが、透析療法および内服の工夫で蛋白喪失をさせないようリンをコントロールする方法なんてたくさんあるわけです。

PEM(Protein Energy Malnutrition)蛋白エネルギー栄養不良

尿毒症による食欲不振によって起こる蛋白質とエネルギーの両者の摂取不足により生じ,さらに体液量の過剰を伴っている。施設や文献にもよるがその発症頻度は患者高齢化、治療長期化に伴い透析患者の半数を占めると言われています。
PEMは下記のように様々な要因から引き起こされます。
    ・食事量不足
        絶対的食事量不足
        味覚に合わない食事指導
        慢性的な透析不足からの味覚異常 etc
    ・精神的な抑鬱状態、不安、不眠による食思不振
    ・加齢・浮腫・尿毒素による消化管障害、便秘、下痢
    ・栄養障害を増強する合併症
        糖尿病
        悪性腫瘍
        虚血性心疾患
        鬱血性心不全
        COPD etc
    ・血液透析そのものによるもの
        過剰な栄養物質除去
        非生体適合性膜使用
        透析液汚染からの慢性炎症 etc
ほかにも挙げればキリがありませんが、透析患者さんは日常的にPEMリスクを背負っているといっても過言ではありません。

PEW(Protein Energy Wasting)蛋白エネルギー喪失

十分と思われる食事内容の患者さんでも、PEWという病態のため、痩せていってしまうことがあります。
これは透析患者さんのエネルギー代謝異常に由来するものです。
透析患者さんは健常人に比べ活動量が低いと思われがちですが、そんなことはありません。
透析日のエネルギー代謝は健常人に比べ1〜2割亢進
非透析日のエネルギー代謝は健常人に比べ1割亢進しているためです。
透析患者のエネルギー代謝が増える理由としては以下が挙げられます。
・透析中のアミノ酸漏出により蛋白合成能の低下
・透析液や透析材料の生体適合性に関する慢性炎症反応
・代謝性アシドーシス(透析日の窒素平衡が大きくマイナスになるため)
・貧血による心拍数・呼吸数の増加
・蛋白異化亢進し、運動しなくても体蛋白が減少してしまう
難しいこと書いていますが、要するに透析患者さんは健常人よりも蛋白やカロリーを摂取する必要があるということなんです。

透析患者さんのBMIと死亡リスク

透析患者さんはPEMやPEWにより痩せてしまう、というのは上記から分かると思います。では透析患者さんのBMI別の死亡リスクはどうなっているのか見てみます。
ちなみに健常人はBMI22を基準に痩せていても太っていても死亡リスクが高いため、基準値が22に設定されています。

透析患者のBMI分布 わが国の慢性透析療法の現況2008 一部改変

透析患者のBMI分布 わが国の慢性透析療法の現況2008 一部改変

BMI別死亡リスク わが国の慢性透析療法の現況2010 一部改変

このように透析患者さんの7割は「痩せ」に分類され、痩せていること自体が死亡リスクを高めていることが分かります。前述のnPCR低値群も7割のため、十分な蛋白がとれないことが「痩せ」に繋がっていることが分かります。健常人では太っていることも死亡リスクを上げる要因になりますが、透析患者さんに関しては太っていることは死亡リスクに繋がらないというのが面白いところだと思います。

まとめ

nPCRに着目し、透析患者の「痩せ」を防ぎましょう
間違った栄養指導および透析条件は患者さんの状態を悪くするということを念頭に置き、日々の治療の中で個々に合わせた治療を提供しましょう。
「いっぱい食べて」と言っても、食べられない患者さんがたくさんいます。栄養補助食品の活用や、アミノ酸補充療法、その他やれることはたくさんあります。各コメディカルの専門性を生かし、多角的にアプローチすることが大事だと思います。

  • この記事を書いた人

koch

CE Worksのkochです。全国の透析患者のみなさんや医療従事者のみなさんに、誰が見ても理解できる内容に拘って情報をお届けできるよう努力しています。 また、在宅透析支援も行っています。在宅透析の導入~管理まで、支援する環境が整っておりますので、お話だけでもさせて頂ければ幸いです。

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